
「いちばんアツい夏」、なんてキャッチコピーのイベント、一体いくつあるんだろう。ホントにアツい、もえるような夏なんてアノ場所にしか存在しないのに。
怠惰な生活に刺激を。日常からの解脱を。それらを提供するのは、最強の祭典『コミックマーケット』(コミケ、コミケット)。そして、その場の主役が「おたく」たち。
市場として、また国際的に通用する文化として注目されつつある「おたく」と、その祭典「コミケ」を調査してみた。
まず、今回のテーマである「おたく」とは、どんなカテゴリーの人々を指すのかをはっきりさせておきたい。
そもそも「おたく」という言葉は、小判サイズのロリコン志向・アダルト劇画誌「漫画ブリッコ」(白夜書房刊)の83年6月号巻末に掲載されたコラムから生まれた。この著者は(当時若手ライターだった)中森明夫で、「おたく」は彼による造語ということになる。ヒントとなったのは、当時の同人誌販売会や漫画専門店にたむろする常連達が好んで使った2人称表現「おたく」。80年代後期には一部のアニメ・SFマニアの間で使われはじめたが、当時は仲間同士のダメ人間ぶりを揶揄する表現だったと言われている。
ここで、おたくの定義について、定評のある解説を引用しておこう。
一般の人は、ただ単にアニメや特撮やゲームが好きな人間を「おたく」と考えていることが多い。しかし、その手のものがどんなに好きであっても、それだけではその人を「おたく」とは言えず、それは単なる「ファン」である。「ファン」が「おたく」になるためには、膨大な経済的、時間的、知性的投資が必要なのだ。
見て楽しむだけ、集めたり研究するだけではなく、ほかの人をうならせるためだけに、普通の人の見ないマイナーな番組や古い番組をチェックしたり、中世魔導書の研究のためにヨーロッパの城塞都市に取材に行ったり、パロディマンガや独自論を同人誌に書いてこそ、その人はおたくの第一歩を踏み出したといえる。おたくに必要な要素は才能だけではない。膨大な努力も重要である。
おたくとはこのように「おたくの定義だけでも3時間喋る奴」の別名でもある。
(TVbros『おたくの迷い道』岡田斗司夫著より。一部編集)
社会の中のおたくを調べていて、興味深いデータを見つけた。
図1は、おたくとは「特有の消費行動を示す日本のマニア消費者層」であるとして、野村證券総合研究所が調べたものだ。コンテンツに関連する4分野(アニメ、アイドル、コミック、ゲーム)の産業全体の市場規模は約2兆3000億円で、このうちマニア消費層の消費規模は約2900億円に達している。マニア層が占める規模は金額ベースで11%となり、国内の市場にたいする影響力はもはや軽視できない。
また、おたく層を「市場」と見た場合、2つの魅力が存在すると言われている。それは、高い購買力と新製品の受け入れの早さ。マーケティング面で、これらは特に大きく作用する。というのも、おたくは新技術・製品をすぐ利用し、感想を周囲へアピールするのも欠かさないからだ。
そのため、おたくマーケティングではおたく独自のアレンジを推奨することと、情報交換を奨励するといった手法がとられている。おたくの性向を掴むことが、ヒット商品の芽を発見することにつながるのだ。
また、おたくの消費エネルギーは経済力ではなく情熱をベースにしている。高価格だったり限定品だったりのハードルも難なく越えてしまうのがおたく。しかも、それらのハードルが逆に情熱を掻きたてているという側面もある。その消費行動は景気変動の影響を受けにくく、コンテンツやハード市場を下支えする安定した市場となっている。
それでは今後、日本国内のおたく市場は拡大していくのだろうか?
この問いに答えるのは少々難しい。ただ「おたく市場への新規参入は少ない」ため、急激に拡大することはないだろう、との考察もある。少子化などの要因も考えると、おたく市場全体の先行きは決して明るいとは言えない。
しかしながら、親から子へ、世代を超えたおたくの輪も広がりつつある。また、1分野のおたくになった人が、ほかの分野に惹かれていく例も多い。今後の国内おたく市場にも、そこまで悲観する必要はないかもしれない。
| 分野 | 人口 | 推計市場規模 | 参考とした主な指標(分類) | |
|---|---|---|---|---|
| アニメ | 20万人 | 200億円 | タイトルあたりのDVD売り上げ枚数 | |
| アイドル | 80万人 | 600億円 | コンサート動員数、 CD初出売上 | |
| コミック | 100万人 | 1000億円 | 同人誌即売会参加者数、 雑誌購読率 | |
| ゲーム | 家庭用 | 57万人 | 450億円 | ゲームプレイ時間、 ネットワークゲーム参加率、 特定雑誌出版部数 |
| PC | 14万人 | 190億円 | ||
| ネットワーク | 3万人 | 10億円 | ||
| アーケードなど | 6万人 | 130億円 | ||
| 4分野計 | 280万人 | 2580億円 | ||
欧米で日本のアニメやゲームが大ブームを呼んだことは記憶に新しい。ポケモンやセーラームーンといったアニメに子供たちが熱狂し、映画でも「千と千尋の神隠し」はオスカーを獲得した。日本でも話題を呼んだ『マトリックス』は日本のアニメから特撮のヒントを得ている。
日本では日のあたらないフィギュアも欧米での評価は違う。国内では1年で1万5千個だった『新世紀エヴァンゲリオン』のアクションフィギュアも、アメリカでは1シーズンで9万個を売りつくしている。
また、芸術展のオリンピックと呼ばれるヴェネチア・ビエンナーレ第九回国際建築展での日本館のテーマは『おたく‥人格=空間=都市』だった。
そのときの展示では、おたくの個室、コミケ、秋葉原、ネット空間が再現された。展示概要には、「そこは情報化時代の建築空間としてしばしば思い描かれてきたような、無色透明な浮遊空間などではない。各々が物語のオーラをまとったアニメ絵の無数の聖像(イコン)が、内外の壁、床、そして画面を、汎神的に構成している」とある。また、おたくを「特有の自意識とセクシュアリティをベースにしている」とも述べられ、「(国家や民族、宗教を越えた)新たなる構造としての「人格」の浮上は、環境の情報化と密接に絡んでおり、資本とはまた違ったパターンで、容易に旧来の境界を越境し、場を形成する」とすら書かれている。
おたく文化が世界に通用する概念になるとは、想像するだけで身悶えしてしまう。
最後にいよいよコミケの話をしよう。
「コミックマーケット準備会」の主催するコミケは、「オールジャンル同人誌即売会」として、オタクの面々に普段では買えないモノの売買、そして新たな出会いための場を提供している。最近では企業ブースやコスプレなども集まり「オタクの祭典」の名をほしいままにしている。
歴史をひもとくと、75年に開催されたのが第1回のコミケ。初期は回数や会場もばらついていたが、現在は夏冬の年2回、有明の東京ビッグサイトでの開催に落ち着き、広く一般にまで知れ渡っている。
だが、コミケの不定期開催についてを知る人は少ない。最近では今年の3月に「コミケ誕生30周年」を記念して行われた。この不定期コミケ、78年には一橋祭でも行われている。当時のマンガ好きの一橋生たちが集まって自主運営して開催したのだと言われるが、これにはなにかの因縁を感じてしまう。
ここで、昨年の冬に行われたコミケのデータを見てみよう。
| 会場 | 東京ビッグサイト全館 |
|---|---|
| 会期 | 04年12月29・30日 |
| 参加サークル数 | 23000(申込48000) |
| 入場者数 | のべ18万人 |
| 更衣室登録数 | のべ11770人 |
| (うち女性) | (9400人) |
人が来すぎて会場が見つからないことが年中問題になるほど人が多く、そのにぎわいは1日あたり1千万円を稼ぐサークルがあることからも確かめられる。また、更衣室は主にコスプレ参加者が借りる(コスプレでの入退場が禁止されているため)ので、会場の30人に1人はコスプレイヤーとなる。初めての人にとってはいいカルチャーショックになるだろう。
もっともアツい、萌えるような夏、体験してみませんか?
萌え萌えジャパン(04年講談社)

「キャラクターは人の心が生み出した存在であり、(中略)現実の人物にはありえない魅力を放つ。(中略)キャラクターの現実を超えた魅力に打たれた人は、いても立ってもいられなくなり、そのキャラクターを欲するが、しかしキャラクターそのものに到達することは絶対にできない。虚構と実在との狭間、想像と現実の境界で自覚的にたゆたう行為こそが『萌え』であり、萌えることの楽しさなのである」(『萌え萌えジャパン』第1回「メイドさんに萌え萌え」を一部編集)