
8月、本格的な夏とともに来る、2カ月の猶予期間。大学時代を過ぎたら退職まで得られないと言っていい、超・長期休暇。ここでは、「時間がない」という理由なんて通用しない。
でも、逆に不安。みんなは何をしているの? 具体的に、どんな時間の過ごし方があるの?
素朴な疑問に迫ってみた。
一橋生約100人を対象に行った夏休みの計画に関するアンケートの結果(図1)を見てみよう。全体の傾向としては、やはり部活・サークルに多くの時間を費やす人の多さが目立つ。ただ、その一方で勉強に時間をかけるという人も意外と多く、「学生=遊んでばかり」といった一般論との乖離が興味深い。予想通りの結果になったのは旅行。全学年共通して高い人気で、休みを利用して長期の旅行を、と考える人が多数に及んでいることが分かる。
学年別の傾向では、行動の差が顕著に見えてくる。まず、大きな特徴なのが1・2年生の自由奔放さだ。「最大のイベント」と「一番時間を費やすこと」という2つの観点から予定を聞いたところ、「サークル」「遊び」「アルバイト」といった回答が多く寄せられ、このことから夏休みを「好きなことをして楽しむ期間」と捉えていると考えられる。逆に3年生以降になると、一気に勉強やインターンの比重が大きくなる。「資格」や「ゼミの勉強」「卒論」「インターン」などの項目を答えた人が多く、将来について悩んでいる彼らの姿が浮かび上がった。また、意外だったのが「インターン」。従来は3・4年生がやるものというイメージで見られていたが、2年時にやると答えた人も相当数いた。授業科目としてインターンが導入されたこともあり、一橋生の意識が変化しているのかもしれない。
| (分類) | 1年 | 2年 | 3年 | 学年計 |
|---|---|---|---|---|
| 読書 | 4 | 1 | 4 | 9 |
| 勉強(ゼミ) | 5 | 7 | 20 | 32 |
| サークル、部活 | 14 | 12 | 5 | 31 |
| 遊び、飲み | 14 | 21 | 5 | 40 |
| 旅行 | 5 | 13 | 9 | 27 |
| 免許 | 6 | 4 | 0 | 10 |
| アルバイト | 12 | 10 | 2 | 24 |
| 学外イベント | 1 | 2 | 1 | 4 |
| インターン | 0 | 7 | 10 | 17 |
| 帰省 | 4 | 2 | 0 | 6 |
| 未定 | 4 | 3 | 5 | 12 |
| 総数(回答者数) | 69(27) | 82(38) | 61(26) | 212(91) |
数字は人。自由回答形式で集め、一橋通信が分類した。
最初に紹介するのは、小林香織さん(社2)の夏休み。小林さんは、オーストラリアのイントレピッド社が主催する中国縦断ツアーに参加した。世界中から集まった11人のメンバーと共に、3週間かけて上海から北京まで旅をするという内容である。このツアーの特徴は、地域住民とのふれあいを大切にしているという点。たとえば、内陸部の村落に立ち寄ったり、移動の際の寝台列車では、海外旅行客が使うような席には座らず、地元の住民が利用する劣等の三段ベッドにのったりする。
「イントレピッド社のツアーにはさまざまなコンセプトがあって、自分の興味に合わせて自由に選べる、そこに大きな魅力を感じたんです。グルメツアーや、ボランティアをするツアーなんかもある。私は現地の生活に触れてみたかったので、住民とのつながりを重視するコースを選びました。実際に、列車内、村落などで中国人の方とコミュニケーションをとることができましたよ」
イントレピッド社のツアーのもう1つの特徴は、参加者の多様さだ。学生から私達の父親くらいの年齢の人まで、アジア、ヨーロッパなど、世界各国から参加している。
「私と相部屋だったのは、バングラデシュ人の両親をもつイギリス人の大学院生でした。彼女はイスラム教徒で、医者を目指していて、人を助けるということにたいして強い信念を持ってました。同世代の人だったので、やはり感じるものがありましたね。ほかのメンバーも実にいろんな人がいます。医者もいたし、教師もいた。いろんなバックグラウンドをもつ外国人と交流したいという人には、ぜひともおすすめしたいツアーですね」
しかし、3週間の中には、辛いことや反省点もたくさんあるという。
「残念だったことのひとつは英語です。私は英語があまりうまくないので、メンバーのみんなとなかなか深い話ができず、精神的に落ち込んだりもしました。知ってる人がいない状態でしたし。何より、いいメンバーに恵まれていただけに残念でした。それから、ツアーのリサーチをもっとすべきだったかなと。外国に行って、いろんな人と接するだけで自然と何か得られると思っていたというか、とても受身でした。お財布や、日程の面で妥協もしたし。自分が何をしたいのかをよく考えて、それにあったツアーを選ぶことは、簡単に聞こえるけどとても重要なことだと思います」
この反省を踏まえ小林さんは、今年の春休みにインドネシアのスタディーツアーに参加した。そこでの体験は中国でのそれとはまったく異質のものになったようだ。
「スタディーツアーは、自分の興味と合うものを探しました。私は国際協力や途上国での開発に関心があり、現場を一度見てみたいと思ったんです。このツアーでは、現地のスラム訪問をしたり、農村にホームスティしながら有機農業導入と住民組織化支援をしている現地NGOの活動視察に行きました」
タイプの違う二度のツアー参加経験は、小林さんの大学生活にとって大きなマイルストーンになったのは間違いないようだ。観光、勉強、出会い、人それぞれだが、せっかく貴重な時間とお金をかけていくもの。自分のやりたいことをしっかり見据え、十分リサーチをして、明確な目的を持って挑みたい。
次に紹介するのは、昨年の夏休み、友人と2人で海外旅行にいってきた、阿部容子さん(法3)。阿部さんは、日本トルコ間の往復チケットだけを購入し、予定に縛られずに、3カ月かけて黒海を一周した。行き先が黒海だったのは、イスラム圏への興味とロシア語圏への興味からだそうだ。昔から旅行に強い憧れをもち、1年生の夏休みにもチェコとドイツに一人旅をしてきた彼女は、個人旅行についてこう語る。
「メリットは柔軟なこと。何でも自分で決められるし計画なんて無いに等しかった。気に入った場所があれば、そこに予定より長く滞在することもできる。逆にデメリットは安全性が保障されてないこととか何でも自分でやらなきゃいけないこと」
安全性が保障されてないということについては、阿部さんはインタビュー中何度も「危険」を使って話してくれた。
「めちゃくちゃ危険だよ! 未成年はやめとけばって感じ(笑) ソフィアっていう街では、女の子の集団にいきなりケリを入れられたし、お金を取られることも結構あった。だから、常に最悪のケースを想定して対策を立ててたよ。お金を全部取られても生きていけるように。うちら(友人と阿部さん)は個人旅行2回目だし、安全な場所も大体わかっていたからまあ大丈夫だった。それでも、もう二度とあんなに怖い思いはできないなって思うよ」
しかし、危険の分だけ、特別なものもあった。イスラム教の割礼の儀式に遭遇したり、物売りから助けてもらった女の子の家に泊めてもらったりといった具合である。また、情勢が不安定な地域だからこそ、こんな楽しみもある、と阿部さんは言う。
「情勢が常に変わるから、行きたいところに突然行けなくなったりもする。そういうことをネットカフェとかで逐一情報収集して、ルートを工夫しながら進んでいく。それがまた楽しい。トラブルにぶつかっていく、みたいな(笑)」
最後に、旅の中でもっとも印象的だったことを聞いた。
「イランで、異教徒が入れないようなモスクに忍び込んだときかな。モスクの中に祈る場所があるんだけど、そこで中学生くらいの女の子たちに囲まれてわいわい騒いでた。すると周りの大人に怒られるんだけど、それが中学校の全校集会みたいで(笑) 言葉もわからないんだけど、その10分くらいはほんとにただその子たちと笑ってたって感じで、すごく楽しかった」
たとえ危険な状況について語るときでも、阿部さんの目は輝いていた。「この旅行のおかげで、面白い話がたくさんできるようになったよ」と、彼女は言う。危険や苦労の分だけ、たっぷりと中身の詰まった3カ月間だったに違いない。
最後は東大文学部3年、鹿島真人さんの夏休み。鹿島さんは標高2400メートルの登山客が宿泊する山小屋で、3週間住みこみでアルバイトをした。日当は6000円と低めだが、代わりに食費、宿泊費と交通費が出る。山小屋アルバイトの魅力を聞いてみた。
「自分が山小屋アルバイトをやろうと思ったのは、世間から隔離されたところに身をおいてみたかったから。山では携帯の電波は届かないし、TVもかろうじてNHKが映るだけ。そんな日常とはまったく違った環境に身をおいて、1人になって考えたり、リフレッシュする時間が欲しかった」
昼間に4時間ほど休憩時間も持てるということで、住みこみと言っても比較的自由に過ごしていたそうだ。そんな鹿島さんのお気に入りの過ごし方は、散歩をすること。
「すごく綺麗で過ごしやすいところだった。花畑もあるし、湖もあるし、空気はおいしいし、涼しいし。変わった動物もいたよ。雷鳥とか山椒魚とか。そんな大自然の中を散歩すると、本当に心が安らぐね。大自然の中で生活できるというのは大きな魅力だと思う。夜になると星が信じられないくらい綺麗なんだ」
読書の時間も多くとったらしく、大きな湖のほとりに寝そべってたくさんの本を読んだという。
「色んな本を持っていったけど、読める本と読めない本があった。大自然に囲まれて、時間がゆっくり流れている、という特別な環境だからね。たとえば、学生運動の本なんかは絶対に読めない(笑) 一方で、『南の島にたどり着いて、自給自足生活を始め……』みたいな小説がすごくヒットしたりして(笑)」
長期間、共同生活をするだけあって、仕事仲間との絆も深まるとのことだ。こんな一面も話してくれた。
「いい出会いはたくさんあった。アルバイトが8人いたんだけど、一緒に過ごす時間が長くて、すごく仲良くなる。男ばかりだと思ってたら、意外に女の子が多いんだよ。ほかの人の話を聞くのも楽しかった。それぞれのライフスタイルについてとか。山小屋なんかで働くだけあって変わった人が多いから、いろんな面白い話が聞けたよ」
鹿島さんは山の下のことを『下界』と呼んだ。山小屋には、あわただしい生活とはかけ離れた、まさに別世界が広がっているようだ。